♪Meg♪の色々なんか・・・w

はい。♪Meg♪が色々なんか書いていきます。毎日は交信しないのでご了承ください。

プロット

 

 

 

「こんど話を聞いてもらってもいいかな」

 

それは彼女からの初めての相談ごとだった。

彼女の性質上、常に何かしらを考えていて、

人に意見を乞うなんて日常茶飯事のことだった。

しかし、それは大抵不特定多数に話を振るというもので

特定の人一人に対話を望むなんてことは

今まで持ちかけられたことはもちろん

見たこともなかった。

本当に初めてのことだった。

 

「もちろんいいよ」

 

断る理由なんてない。

というか、見たことのない

真剣で影を含んだ彼女の面持ちを見て

断るなんてことはできなかった。

 

そして同時に興味が湧いたのだ。

何が彼女をそんなに悩ませているのかと。

 

私には高校というこの場では

一番彼女に寄り添っている自信があった。

一人で考え込み、一人で悩むことに慣れてしまった

悲しく強い彼女。

そんな彼女が私に相談を持ちかけてきたのだ。

一番の友人だという証明のようなものではないかと

嬉しくなった。

 

相談は帰りの道中で話すということで、

彼女と放課後に一緒に帰ることになった。

 

 

21:30。校舎を出る。

夜道を照らす街灯は

新しくなって間もないLEDで煌々と照っている。

蛍光灯と比べ白く目に刺さるように明るい光は少し落ち着かない。

蛍光灯の光が恋しいとさえ思うが、

悲しいかな。じきに慣れてしまうのだろう。

 

しかし、歩き始めてからどれほど経っただろうか。

5分?いや10分?

二人きりの沈黙というものは

通常ならば少し苦になるものだが、

彼女との沈黙は普段なら苦でも何でもない。

それはただの沈黙ではなく、お互いに思考を巡らせ

脳内では口に出すよりも多くの言葉を語っているからだった。

けれども、今日は少し違った。

私は話を聞くという名目でその場にいただけで

私自身、特別何かを語ることもなかったし

話もまだ投げかけられていないので

待つ他なかったのだ。

とても違和感があった。

 

一方彼女には、話すことがとっくにあって

口を開き息を漏らすものの一向に言葉が出てこなかった。

口に出すのを何度も躊躇っている様子だ。

自分の意見を自分なりの持論で裏付けてまで

しっかり持っている彼女のこんな姿は

私にとって不思議なものでしかなかった。

 

こんな時は変に催促したり、

余計な言葉をかけるよりも

やはり待つ方がいいだろう

と考え私は歩みの速度を緩める。

 

すると彼女は深呼吸をし、

第一声を紡いでくれた。

 

「私、失恋したらしい。」

 

その言葉に私は拍子抜けしたけれど、

次の瞬間には心底驚いた。

 

これだけ待たせて失恋かい!

いや失恋も充分おおごとだとは思うけど!

 

と内心思ったが、

…ちょっと待て?となったのだ。

 

彼女が失恋?

 

これは本当におおごとだと思い直した。

 

彼女は決してモテないわけではない。

何度か告白されたことはあるらしいし、

高校のうちに一度お付き合いもしたことがある。

けれど、これと言って何も起こることはなくやがて破局した。

とはいえ、人間関係が苦手なわけでもない。

むしろ男女関係なく誰とでも話せる

いわゆる八方美人の節があった。

ただ特別誰かを好きになるということが

すっぽり抜けていた。

 

特別誰かを好きになるってどういうことなのかが分からない。

好きな人はたくさんいる。

その上の特別ってなんだろう。

 

とさえ言っていたそんな彼女が今、

「失恋した」と言っているのだ。

 

普段の彼女ならば

特別人を好きになることができた時点で

私に「新しい感情を知れたよ!」と嬉々とした表情で

報告してくるような人なのだ。

それが特別好きを通り越して恋愛感情としての好きとなり、

その思いが叶わなかったときた。

彼女も相当混乱しているようだった。

 

「失恋?誰かを特別好きになれたってことだよね?

それはよかったじゃん!

でもなんで突然そうなったの?」

 

「…私自身も、驚いた。

その人のこと、普通に友人として好きだって思ってたの。

それはすごく嬉しかったよ。特別ができたって。

この人が一番の友人だ。

この人が私の一番の友人だと言えるって。

でも、その人に恋人ができたときに気がついた。」

 

「あぁ、なるほど。嫉妬しちゃった訳ね。

でもそれが恋愛感情だとは限らないでしょ?」

少し意地悪な笑みを見せてみる。

その時は元気付けようと思ってのことだった。

 

「…そうだったらよかったのにな。」

 

聞こえるか聞こえないかギリギリの声だった。

これであまりにも意気消沈していると感じ、

元気付けようと次の文章を紡いだ。

 

「今、現に私が友人に妬いてるよ?
私があんたの一番じゃなかったんだなって!」

 

私が居るよ

 

って。そのつもりだった。

 

彼女との帰路の分かれ道に差し掛かった時、

 彼女は地面へ向けていた顔を上げた。

その表情は明る過ぎるLEDの街灯による

逆光で伺うことができなかった。

 

「…ううん。あんたが一番だよ」

 

すると今度は

 

突然、私を抱き締めた。

 

「好きになってごめん。

彼氏さんと幸せにね。」

 

彼女はそう言うと

突き放すように私から離れ

自転車に乗って走り去ってしまった。

 

耳から離れない震える声。

抱き締められた時の髪の香り。

濡れた私の肩。

 

これ以上の証明があるだろうか。

あれは間違いなく告白だったのだ。

 

唯一記憶に残らなかった彼女の表情。

 

私はLEDの街灯を恨んだ。

 

 

その日は登校日、最後の日だった。

 

 

 

私は本当に話を聞いただけだった。