♪Meg♪の色々なんか・・・w

はい。♪Meg♪が色々なんか書いていきます。毎日は交信しないのでご了承ください。

艶葉樹比丘尼(椿比丘尼) 下

娘は何十年も茶屋をやり続けました。
しかし、何十年も年のとらない娘を見て恐れを抱いた客たちの足は次第に遠のき、
もう何十年もすると娘の知る者の
ほとんどがこの世を去ってしまいました。
年をとらず、孤独となってしまった娘は
どうすればいいかもわからず、
とりあえず茶屋を畳み旅に出ることにいたしました。
運命のいたずらか、娘は八百比丘尼と同じようにやがて尼となりました。
死を恐れる者にただ生きるだけの虚しさや寂しさを教え看取る日々をまた、
八百比丘尼と同じように送りました。
次第に戦争も始まりました。
死んでは朽ち果ててゆく様のみならず、
娘は互いに殺しあうという惨劇まで見続けたのです。
残酷な世の中と時の流れに
娘の心は疲れ果て、枯れてゆきました。
娘はやはり死ぬことなく十五の姿のまま生き続け、
いつだか戦争も去って行きました。
娘は、ここで一区切りかというように自分の故郷へ向かうのでした。

いざ帰ってみれば、人や建物は違えども
自然の景色は変わらないではありませんか。
娘はほっとし、涙を流しました。
足早にかつてのお寺へも向かいました。
こちらも変わらない姿でありました。
ここらは寺があるということで攻撃対象から外れ、戦禍を免れたのです。
洞穴は万が一のため防空壕として整えられていましたが
使われることなくそのまま残っていました。もちろん椿も…。
自分と同じように姿を変えずに残っていた景色に
娘はもう一度、涙しました。

その様子をお寺の住職は見ていました。
住職は娘の前へ現れ、
「なぜ泣いておられるのですか?
よろしければ、お話だけでも如何ですか」と優しく娘に語りかけました。
娘は自分の不老不死のことや、
送ってきた人生を住職に話すことにしました。
ひととおり聞き終えると住職は言いました。
「さぞ、お疲れになったでしょう。私、実はあなたのお話と似たようなお話を知っていましてね。八百比丘尼と言います。」
住職はそのお話を娘に語りました。
娘はその時、やっと知ることになったのです。
自分が不老不死になった理由を。

「あの椿は八百比丘尼が洞穴へ入る際に
自らお植えになったものなのですよ。」
朽ちた八百比丘尼の肉体を取り込み育った椿は
不老不死の力をも取り込んでいたのです。
全てを知った娘は、八百比丘尼と同じ運命を辿ろうと
洞穴に入ることにいたしました。
「洞穴へ入られる前にお聞きしてもよろしいですか?」
「はい」
「ただいまはおいくつになられるのですか?」
「三百を数えたあたりでやめてしまいました。八百も生きた八百比丘尼様はお強かったのでしょうね…。」
娘は八百比丘尼の植えた椿で
また同じ運命を辿るものが現れぬように、
椿を抱え洞穴に入りました。

これで思い残すこともない。
死ぬことがなくとも
この体が朽ち果てるまで
せめて心穏やかであろうとしたその時、
娘は女の声を聞きました。
「私があなたの魂を導いて差し上げましょう」
「あなたはどなたですか」
「私は八百比丘尼でございます」
なんとその声は八百比丘尼だと言うのです。

「私の肉体は確かに滅びました。しかし、それでも死ぬことはありませんでした。こうして魂だけが残り続けてしまったのです。そのような私にできることは、迷える魂がここへ訪れた時、案内をすることだけです。誰かがこの役目をしなければ、ずっとこの世を彷徨うことになってしまいますしね。」
「そうしてあなた様はずっとここにおられるのですか?」
「はい。さようです。」
「あなたはやはり、お強い方なのですね」
「なんせ八百も生きましたから」
「三百の私なんて相手にもなりませんね」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。私は世界を股にかけた戦争は知りませんから。ほら、早く参りましょう。あなたのおばあさまも待っていらっしゃいますよ。」
「あぁ…祖母のことを導いてくださったのもあなた様だったのですね。…はい。参りましょう。」

こうして八百比丘尼の魂によって導かれた娘は、
ついに最期を迎え、安らぎを得ることができたのでした。

八百比丘尼は魂としてこの世に残り続け、
今もなお洞穴で迷える魂を導いているそうな。


この娘の話はのち、
八百比丘尼伝説に埋もれてしまい
知る者はいなくなってしまったのでした。